レポート作成の前に考えたいこと

はじめに

本日は、Salesforceのレポートをどうも思うように活用できていない、見てはいるのだけれど、どうもアクションにうまくつながっていないとお思いの方々に向けて、ひとつの考え方をご紹介したいと思っています。

Salesforceのレポートやダッシュボードは、一定のお作法はあるにせよ、オブジェクト内に格納されたデータを自由自在に一覧化・可視化できる、優れたエンジンです。 使いこなせれば、相当効果的なマネジメントが可能になるはずですが、実際には不満の声も聞かれます。

主なものとしては、 「自由度が高すぎてどういうレポートを作ればいいのかわからない」 「オブジェクトの構造に引きずられて、思うようなレポートが作れない」 といったところでしょうか。

こういった不満はしかし、Salesforceに特有のものではありません。 従来から、管理帳票類、あるいはそれを代替する分析ツールに対して抱かれてきた永遠の課題です。

これらの課題の根本原因は、いったいどこにあるのでしょうか。

レポートはマネジメントの鏡

日々出力されるレポートから、問題点を見つけ出し、対処法を考えて、実行に移し、問題を解決する。

レポートの本来の役目は、こういったサイクルの端緒になる、「現実の可視化」です。

しかし当たり前のことですが、「現実」にはさまざまな側面があり、すべてを一様に表すことはできません。 そこには必ず、「視点」があります。 現実をどのような軸で切り取るか、という視点です。

言い換えればレポートとは、見る人が何を軸に、どういった視点を元に現実を俯瞰したいかを充足するように設計されていなければなりません。 これが充足されていないレポートは、役割を果たしておらず、存在意義がないのです。 役に立たないレポートでも、あれば習慣的に目を通すことにもなるわけで、大きな時間の無駄を生みかねません。

しかし、多くの方々が、「伝統的に」使われてきた管理視点を、「慣例的に」追っていることも事実でしょう。

繰り返しますが、レポートとは現実を可視化するものであり、管理者の方々が現実をどの視点から俯瞰し、問題点を明らかにすべきかを体現したものです。 つまり、実際にビジネスを運営される方々の意思が込められていなければならず、与えられたものを疑問なく使えばいいというものでもないはずです。

携わっているビジネスを俯瞰して、問題点をすぐに発見できるものでなくてはなりません。 極論すれば、レポートとはマネジメントそのものと言ってもいいでしょう。

KPI(Key Performence Indicator)

では、ビジネスの現実を可視化するために必要な視点とはどういったものでしょうか。 もちろん、業態によっても、携わってくる業務によっても大きく変わってくるので、一概には言えません。

しかし、ビジネスの構成要素を指標化して、俯瞰するという考え方は共通化できるかと思います。 この考え方が、一般に「KPI」と呼ばれるものです。

KPIとは、Key Performence Indicator の略で、「重要業績評価指標」などと訳されます。 業務改善を考える際、最終的な目的を達するために必要となる向上要素を、定量指標化したものです。

たとえば、ある製品を製造している場合、その生産性を上げたいとします。 工場が8時間稼動、1日に800個作れていたとすると、時間当たりの生産量は100個です。 この工場にはラインが10本あったとすると、1ラインの時間当たり生産量は10個。

1個作るために360秒かかっている計算になります。 1個作るための時間が短縮できれば、1日の生産量は当然増加します。生産性の向上が見込めるわけです。 この、「1個当たりの製造時間」が定量化可能な指標、つまりKPIとして設定でき、

たとえば「1個当たり製造時間を300秒に短縮する」という目標をたてることができます。 この場合、工場全体での1時間当たりの生産量は120個、1日当たりの生産量は960個になりますので、20%の生産性向上です。

実際には、1個当たりの製造時間の短縮のためには、1個当たりの製造工程を吟味し、よりブレイクダウンした形のKPI設定が必要になるでしょう。 工程の一つ一つの時間をKPI化し、短縮の手段を探るわけです。 例えばこの工場ではネジ締めに30秒かかっていました。 ネジ締めの工程を見ると、作業者が用意された複数のネジから選んで一つ一つの箇所に締めこんでいます。 ネジ締めの順序を標準化し、その順序ごとにネジを分けて並べることで、「選ぶ」作業が短縮化され、ネジ締め自体の作業時間の短縮につながるかもしれません。

このように、適切にKPIを設定することで、最終的な目的を達成するための具体的な施策につなげることができ、しかももともと定量的なものとして設定しているので、その効果を常に追跡することができるのです。

因数分解のススメ

しかし、この「適切な」KPIの設定は、なかなか簡単なことではありません。

そのためのひとつの鍵になるのは、大きな目標を達成するために必要な要素を細かく分解して行くことだと考えます。 原因となっている数字へと分解して行く――因数分解です。

例えば、先ほどは工場の製造工程でしたが、営業活動についてはどうでしょう。 「売上向上」という至上命題のためには、どんな分解ができるのでしょうか。

一番大きなところから分解すると、こういう形になるでしょう。

a. 売上 = 受注数 × 受注単価

営業目標としては、一般に受注の数自体に重きをおかれることが多いと思います。 単価は顧客側の環境に左右されやすく、活動の結果として結びつきやすいのは数の方だと経験的にわかっているからです。

受注数をもう一段分解すると、こうなります。

b. 受注数 = 商談 × 成約率

俯瞰的に見るため、a. の式に代入してみます。

売上 = 商談 × 成約率 × 受注単価

考えて行くと当たり前のことなのですが、言語化してみると商談の数、成約に結びつける努力、一受注の単価、それぞれが間違いなく売上向上に結びついていることが視覚的にも理解できます。

先ほどのネジの例のような具体的な施策に落とし込むためには、少なくともさらにもう2段か3段の分解が必要になるでしょう。 分解の結果は、どう結びついているのかを一覧できるよう、ツリー構造にしてまとめておくことがお勧めです。

商談数向上の要素、成約数向上の要素、受注単価向上の要素。 これらは業態や商材、置かれている現状によって分解の仕方は当然変わって来ます。

しかし、共通して言えることは、最終的な目的に間違いなく結びつく指標を追っているかどうかが非常に重要だということです。 現在使っているレポートが、因数分解の結果と結びつかないのであれば、使うべきレポートを再考する必要があるでしょう。

おわりに

ご紹介した考え方は、言い換えると「目的を果たすためにどういう手段が必要か」を探るためのプロセスともいえます。 レポートやダッシュボードは、その結果として導き出された「目的を果たすための手段」が目論見どおり進んでいるか、何か問題がないかを計るためのツールなわけです。 したがって、レポートのレイアウトを考える前に、まず計るべき指標の適正さを考える必要があると思っています。

ひとつ大事なことは、一度作ったKPIや、それに基づくレポート/ダッシュボードは決して永続的なものではないということです。 環境が変われば、当然重要視すべきもの、最終的な目的となるものにも変化が生じます。 KPIの設定は、「戦略ありき」ということを忘れてしまうと、形骸化したレポートがいつまでも残っている、ということになりかねません。

また、ここまでの内容は、開発者の方々にも是非理解していただきたい視点です。 レポートやダッシュボードの設計に非常に重要なのはもちろんですが、システムというものが実際のビジネスの一部をコンピュータ上にあらわすものである以上、これらビジネスの構造が、オブジェクト構造にも密接にかかわってくることは間違いないからです。

定義したオブジェクトが、ビジネスのどの要素をモデル化したものなのか、常に念頭に置いて設計に当たっていただければ、レポート作成の際にオブジェクト構造との不整合で頭を悩ませることも少なくなるのではないでしょうか。

冒頭にも申し上げたとおり、Salesforceのレポートやダッシュボードはとても優秀なエンジンです。 適正な設計と、それに基づくPDCAサイクルに活用されれば、間違いなくビジネスに大きなインパクトを生むことになることでしょう。