Salesforce認定テクニカルアーキテクトという資格について

先月、Salesforce認定テクニカルアーキテクト(以下TA)に合格致しました。 良い機会なので、本稿ではTA資格の存在意義や、試験制度について取り上げたいと思います。

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<TA資格とは>

TA資格は数年前に新設された技術系の最上位資格になります。 そもそもアーキテクトとは「設計者」の意味ですが、プログラム上の設計ではなく、システムの全体像の設計を行う立場の人を指します。

Salesforceの公式のStudyGuideでは、

Salesforce.com 認定 Technical Architect プログラムは、顧客システムのアーキテクチャの評価、Force.com プラットフォームでの安全かつ高パフォーマンスなテクニカルソリューションの設計、技術的なソリューションと設計上の妥協点などをビジネスステークホルダーに効果的に伝えるコミュニケーション力、そして品質を確保した確実なリリースという一連の知識及びスキルを持つ経験豊富なテクニカルアーキテクトを対象にしています。

と説明されています。

Force.comプラットフォームでのデータモデル、セキュリティ、API、認証といった仕組みへの深い理解はもとより、それらを組み合わせて如何にソリューションを作り上げるかといった実践的な知識を問われます。

また、「顧客システムのアーキテクチャの評価」とあるように、Force.comプラットフォーム上に構築するシステムのみならず、Force.comと連携する既存または新規のシステムに対する評価や、相手システム側の認証やAPI、ネットワーク経路等も適切に理解し、効率的に相互を連携させて業務要件を実現していくための様々な知識も問われます。 更には顧客のプロジェクトオーナーやマネージャと必要に応じて確認や折衝を行い、プロジェクトを円滑に進めるためのステークホルダーの決定方法や、コミュニケーション力といった部分も重視されていますし、品質確保、リリースサイクルなど、試験範囲は広大ですし、Force.com以外の経験と知識が必須となります。

<試験について>

では、実際にはそうした知識やスキルをどのように評価し、試験は行われるのでしょうか。 試験は、

①自己評価テスト②選択式試験 ③レビューボード の3段階で構成されています。

①自己評価テスト

自己評価テストはWebから受験が可能な無料のテストになります。 技術的な知識などを問う内容ではなく、TA試験を受験するために必要な経験や知識を備えているかをアンケートに回答することによって判定されます。

また、③レビューボードでプレゼンを行う過去に携わったソリューションについて、内容を証明し、コメントをできる推薦者2名の連絡先の提示も必要になります。

②選択式試験

2次は120分の選択式の学科試験になります。 出題範囲の詳細はStudyGuideを参照頂ければと思いますが、Force.comプラットフォームのライセンス選定や各種API、パフォーマンスチューニング、データモデル等も勿論ですが、IPネットワークやSAML等のSSO、ソーシャルネットワークやERPとの連携方法などなど、非常に広い範囲からの出題となります。

Force.comプラットフォームに関する設問は上級Developerの問題に近いものも出題されます。TA受験の前には上級Developerに合格できる程度の知識は必須となります。

③レビューボード

最終選考がこのレビューボードになります。レビューボードは既にTA資格を取得している試験官との対面またはテレカンによるプレゼンとQAを行います。試験官には海外のTA資格者も入るため、英語でのやり取りが厳しい場合には、同時通訳を入れて貰いながらの試験となりますので、所要時間も倍の時間となります。

試験は2部制で、1部は与えられたサンプルシナリオの顧客要件に基づき、ソリューション提案のプレゼンとQAとを行い、2部は受験者本人が主体となって過去に構築したソリューションについてのプレゼンとQAで構成されます。

サンプルシナリオは仮想企業のソリューション構築に当たり、外部システムとの連携やライセンス選定、データモデル、セキュリティ要件の実現など、シナリオ上多くの要件が与えられます。 限られた時間の中で、それらの要件を満たせるソリューションをプレゼン資料に纏め、各要件に対し、用意した選択肢とその中から選定した合理的な理由を説明することを求められます。 実際に受験してみると、資料作成の時間の短さを痛感しました。 ただ、資料そのものの見栄えや出来よりは、プレゼンやQAで、キーポイントをどれだけ拾い出した上で考慮できるかが重視されていると感じました。

一通り資料を元にプレゼンを行った後はQAの時間となります。 QAでは「この要件はこのソリューションではどうやって実現するのか?」、「ここで選定したこの技術要素を具体的に説明してくれ」といった形で、サンプルシナリオと採用した技術について、どこまで深く理解し提案しているかを鋭く突っ込まれます。

サンプルシナリオの時間が終わると、今度は実際に構築した顧客シナリオのプレゼンとQAのセクションとなります。 サンプルシナリオと比べて、実案件でどういった体制、スケジュールで構築を行ったか、選定に際してどういった点を考慮したか、テストや品質確保はどうやって行ったかといった、技術要素だけではないプロジェクトマネジメントの観点からの質問も多く、プロジェクト進行上起こり得る様々なリスク要因を適切に判断・行動して解決する能力を有しているかを重視されています。

<TAの存在意義>

試験の内容を見ると、外部システムとの連携を含め、大企業の巨大ソリューションの一部として、Force.comプラットフォームをどのように組み合わせ、拡張性や汎用性を出来るだけ担保しながらどのように活用していくかという視点から本資格が設定されていることが伺えました。 クラウドはその黎明期を終え、既に世界中の多くの著名企業で本格的に導入され、普及期に入っています。

モバイルやビッグデータ、SNS、IoTなど、新たなコンセプトが生まれてはシステムが価値提案できる範囲も日々広がっています。 TAはForce.comプラットフォームの持つ能力と制限事項を熟知した上で、基幹システムや他のクラウド、Webサービスなどと連携を実現していくことで、プラットフォームの持つ可能性を広げられる能力を認定する資格と位置付けられていると感じました。

こうした資格が設置された背景には、Force.comプラットフォームが多くの企業で採用される中で、まだまだ多くの可能性を秘めたプラットフォームであり、その可能性を広げて行きたいというsalesforce.com社の意志を感じます。

プラットフォームは年に3回のバージョンアップによって、次々に新機能・新技術への対応を行い、ユーザ企業が望めばすぐにでも新しいことを始められる環境を提供しています。 それを如何に活用し、効率的かつ効果的に、プラットフォームが持つポテンシャルを引き出して行くかを課題と捉え、それを解決できるスキルを持つ者を公式に認定し、より多くの活躍の場を提供することが、すなわちユーザ企業にとっても大きなメリットを提供することに繋がると考えているのだと思います。

<最後に>

TA試験はとても難易度も受験料も高く、ハードルは決して低くはありませんが、技術者にとって、挑戦する過程で身に付けることが必要となる知識に無駄になるものなど一切無いと思えるくらい、試験の範囲も内容も洗練されています。

レビューボードが終わった後はクタクタになるほど多くのエネルギーと時間を必要としますが、真面目に取り組めば、得る物はとても大きいと思います。 1人でも多くの方が、この資格の存在を知り、取得を志して頂ければ本稿を寄稿した甲斐があったと思います。

今後は私も試験官としてレビューボードに参加することもあるかと思います。受験者の方とお会いできる日を楽しみにしています。