Dreamforceレポート最終日 -Dreamforce2013 Overview

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みなさまこんにちは。 4日間にわたったdreamforceもいよいよ最終日となりました。 本日は、大友がお送りいたします。

私自身も8つのKeynoteと11のSessionに参加しましたが、その総括として、そこに流れるSalesforce.comが今回のdreamforceに込めたメッセージを、私なりに読み解いてみたいと思います。

dreamforce 2013のメッセージ:Internet of Customer と "3rd Wave of Computing"

一言で言えば、"Internet of Customer"、これに尽きるといえるでしょう。

CCT(Customer Company Tour)に参加された方々はお聞き覚えあることと思います。先日岩下がしたためた通り、今回のdreamforceの基調講演でも、マーク・ベニオフのメインメッセージは"3rd Wave of Computing"と、そこから始まる"Internet of Customer"でした。

かつてのメインフレームによるコンピューティング(第1の波)からクライアント・サーバ中心へと移行し(第2の波)、そして今やコンピュータのみならずすべての消費財(歯ブラシから自動車まで)がIPで連結される(IoT - Internet of Things:第3の波)。

消費者行動がほぼネット上に写し取れるようになったからこそ、その本質はその後ろにいる「顧客(Customer)」であることを十分に理解し、そこにフォーカスした企業になっていかなければならない。勝ち残れない。

そのための手段は2つ。 本当のOne-to-One Marketing(dreamforceでは1:1 Marketingと表記。以下この表記を用います)と、システムに関わるすべてのユーザー(人間だけとは限らない)にとってのインターフェースの向上。

要約するとメッセージとしてはそういうことになると思います。

そして、プロダクト・サービスとして大きく掲げた"ExactTarget Marketing Cloud"と、もうメディアでもさんざん紹介されている"saleceforce1"とが、まさにこのInternet of Customerを実現するための最強のプラットフォームである、というわけです。 参加したセッションでも、そのメッセージ性は色濃く反映されていました。

1:1 Marketing

たとえば初日のIndustrial DayではAutomation、つまり自動車業界テーマのものを中心に参加したのですが、アウディ、ルノー、BMW、フォード、ホンダ(の米国ディーラー)、米国中古車ディーラーといった、自動車産業の主力を担うメーカーやディーラーにおける数々の事例が紹介されました。

初日ゆえ、マークの基調講演前でしたが、それでもすべてのセッションが「すべては顧客のために」「いかに1:1でブランド価値を高めるか」という文脈で統一されていました。

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Sales Cloud や Service Cloud の最大活用はもちろんですが、加えて(ExactTargetとは直接関係しないものの)マーケティング要素を強く打ち出し、企業の事業活動全般においてsalesforceを活用することで、より深く顧客とつながることができるという明確なメッセージの発信だったわけです。

潮流そのものには至極共感を覚えたものの、一つ疑問に思ったことがありました。 システムがクラウドへ移行し、つまりはマーケティング面のテクノロジーが同質化することが避けられないとするなら、戦略もまた同質化せざるを得ないはずです。

だとすれば、各メーカーや販売会社は差別化をどこで行っていくのか...? これは全く自動車業界に限った話ではなく、すべての業界に共通の話です。

本当にその同質化が実現してきたならば結局のところ、企業のビジョン、アイデンティティをどれだけ保ち得るか、というところに帰結することになるのでしょう。 企業価値がさらに厳しく問われる時代がやってきそうです。

インターフェースの向上:salesforce1

やや話が逸れました。 上記はInternet of Customerを実現する手段のうち、主に1:1 Marketingにフォーカスしたものですが、もう一つの軸、インターフェースの向上についてはどうでしょうか。

salesforce1の本質は、API化の推進の方にあると私は思っています。 デバイスやユーザを選ばずに同質のサービスを提供するには、データ層とのやり取りが統一されている必要があります。

言うまでもなく、そもそもこれを実現するために生まれた技術がAPIなわけで、これを大量に増産することで、あらゆる「ユーザ」に対して同質なサービスを提供し得るプラットフォームへと進化させる。 それは、"3rd Wave of Computing"すなわち"Internet of Things"への不可欠な対応でしょう。

developers keynoteにおいて、salesforce社のvice president of developer marketingであるAdam Seligmanは「salesforceのプロダクトは、"API first"にしていく」とまで言っています。

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一方、いわゆるUIの部分においては、salesforce1と同時に発表されたsalesforceAを見ても明らかなように、すべてのユーザーに対して完全にスマートデバイスファーストな方向にシフトしています。

開発者向けの各種ツールも、スマートデバイス向け開発をスムースに行えるよう打ち出していく方針です。 誰でも直観的にわかりやすく、常に携帯し続ける性格を持つスマートデバイスを中心にしていくことは、"Internet of Customer"の方向性からもうなずけます。

そしてまた、目玉となるKeynoteゲストの一人に、UXの権威でもあるMarrisa Mayerを招へいしたのも、もちろん単なる偶然ではないでしょう。 彼女が言っていた「"Daily Habit(日常的に使う)"なUI。使いやすい、使うものでなくてはならない。使われなくなるのでは意味がない。」というのは、まさにこれからの仕組みにはなくてはならないものでしょう。

それを実現し得るプラットフォーム、それがsalesforce1だというメッセージだったと受け止めました。

dreamforce 2013はイノベーティブだったか?

センセーショナルな発表の仕方、過剰なまでの演出、計算されつくした盛り上げ方。 単体セッションは言わずもがなですが、イベント総体としてプレゼンテーションは超一級品だと思います。日本でこれをできる企業はちょっと思いつきません。 ムードも高揚しているには違いないのですが、果たしてでは今回の発表内容はイノベーティブだったのでしょうか?

結論から言うと、私自身は「イノベーティブだった」と結論付けています。 とはいえ、ちらほら声も聞かれるように、テクノロジー的にはイノベーティブな部分は実はほとんどなかったと思っています。

従前のサービスのAPIを拡充し、それらを統合的に利用するスマートデバイス用のUIを新設しただけ、言ってしまえばそれが"salesforce1"でしょう。 しかし、この発表を聞いた時に私が受けた印象は、SNSが台頭してきた時に受けたそれときわめて近いものでした。SNSという概念もまた、要素をひも解けばそれまでにあったEメールと、ブログと、BBSとを統一的なUIとIDで組み合わせただけ、なのですから。

つまり私が言いたいのは、既存のものを組み合わせ、ユーザビリティを向上させることで、単なる足し算にとどまらない「協働価値」が生じ、新たな「概念」になるということです(そしてアメリカ人はこの「概念」のブランディングがとても上手く、日本人はことのほか弱い...)。 ユーザーにとって大事なのはこの「概念」つまりは「世界観」であって、成し遂げられる結果、変化がすべてです。 そういう意味で、salesforce1は確かにこれまでの世界を変え得るポテンシャルを秘めていると思います。

また、1:1 Marketingについては、概念的にすら新しいものではありません。 近年の、いわゆる「ビッグデータ」ブームによってムードが再燃した感はありますが、概念自体はもう何年も前から謳われてきたものではあります。

しかし、それが「本当に」実現できるとなれば話は別です。 今までのところ、まがりなりにもそれを実現できている企業はごく少数といっていいでしょう。 そして彼らは、今の仕組みを作り上げるまでに膨大な費用と時間とを費やしているのです。

ExactTarget社の買収をきっかけに、これまでのRadian6、BuddyMedia、Social.comを包含して、ExactTarget Marketing Cloudとしてリブランディングすることになったsalesforceのマーケティングソリューション。 発表内容を見る限りにおいてはキャンペーンマネジメントからリアクション分析、転換の後はSales CloudやService Cloudと連携してのCRMが可能となれば、確かに1:1 Marketingを行うに必要な要素が、(ここが大事なのですが)「統合されて」そろったように見えます。

もちろんこれまでにも、個々の要素を充足するソリューション製品は世に枚挙に暇がないほどに存在していました。 しかしマーケティング担当者からすれば、それをコーディネートし、個々の要素のインターフェースをそろえ、運用の設計をしなければなりません。

大抵は個別のデータ様式、個別のデータベースを用意するため、データ連携もままならず、要素ごとに二重三重の入力を行わなければならない、といったことになりがちだったのです。これではまさに"Daily Habit"とは逆行する状況で、一部分での成功は見込めても全体としての戦略をカバーするには相当な苦労やコストが要されました。

ExactTarget Marketing Cloudが私の受け止めた額面通りのサービスを提供してくれるのだとすれば、グローバルに事業展開が可能な資本力を持つほどの大企業だけでなく、salesforceユーザーの中心である中小企業にまでハイレベルなマーケティングを行うチャンスが生まれます。

salesforce1は既存の手段を組み合わせることで「概念」を生み出しました。 ExactTarget Marketing Cloudは概念に追い付く手段となり得るでしょうか。 双方とも、実現すれば「世界」が変わります。 まさにイノベーションそのものです。

Most Innovative Company:まとめにかえて

折しも、このdreamforce期間中に、ガートナーが2014年の戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10を発表したというニュースが入ってきました。 詳細はリンク先をご覧いただくとして、注目すべきはここで上げられている技術群です。

  • ・モバイル・デバイスの多様化とマネジメント
  • ・モバイル・アプリと従来型アプリケーション
  • ・「すべて」のインターネット(Internet of Everything)
  • ・ハイブリッド・クラウドとサービス・ブローカーとしてのIT
  • ・クラウド/クライアント・アーキテクチャ
  • ・パーソナル・クラウドの時代
  • ・ソフトウェア定義(SDx: Software Defined Anything)
  • ・WebスケールIT
  • ・スマート・マシン
  • ・3Dプリンティング

驚くのは、今回のdreamforceの発表内容、各KeynoteやSessionの内容が、上記をほぼすべて網羅していることです。 ご存知のように、salesforce.com社は、Forbsの"The World's Most Innovative Companies"のベスト・オブ・ベスト、第1位に3年連続で選ばれています。

今回のdreamforceは、「世界で最もイノベーティブな企業」の面目躍如といったところでしょう。 漏れ聞いた話で、確定情報とは言い難いですが、ExactTarget Market Cloud は遠くない未来、日本語ローカライズを含めて日本での展開も視野に入っているようです。

salesforce1の拓くモバイルファーストな世界に加え、1:1 Marketing を実現する環境がそろったなら、日本のビジネスシーンにどんな変化が起こるのか... 考えるだに、ワクワクしますね。