量子計算のボトルネックである"測定"に新たなアプローチ
2026年6月2日
株式会社テラスカイ
量子計算のボトルネックである"測定"に新たなアプローチ ~QuemixとSCSK、測定回数を最大で1/1000に削減する新技術「PODリードアウト」を開発~
株式会社テラスカイ(本社所在地:東京都中央区、代表取締役CEO 社長執行役員:佐藤 秀哉)のグループ会社で量子コンピュータのアルゴリズム・ソフトウェアの研究開発を行う株式会社 Quemix(本社:東京都中央区日本橋 代表:松下 雄一郎、以下 Quemix)と、SCSK株式会社(本社:東京都江東区、代表取締役 執行役員 社長:當麻 隆昭、以下 SCSK)は、量子コンピュータの実用化を阻む「読み出し(測定)」のボトルネックを解消する新技術「PODリードアウト」を開発しました(特許出願中)。本技術は、量子コンピュータが生み出す膨大な計算結果をすべて読み取るのではなく、解にとって本当に重要な情報だけを直接抽出するという発想に基づくものです。これにより測定回数を最大で1/1000まで削減し、量子計算の高速性を損なうことなく、製造、材料、金融など産業分野における実用的なシミュレーションや解析への道を切り開きます。
1.社会的背景と課題
2050年のカーボンニュートラル実現や、複雑化する金融市場のリスク管理など、現代社会では高度なシミュレーションや解析が不可欠となっています。特に再生可能エネルギーの導入拡大に伴う電力網の安定化や、高効率なエネルギー機器の設計における流体や熱伝達シミュレーション、次世代電池や半導体材料の開発における分子レベルでの化学シミュレーションなどは、対象の規模や精度が高まるほど計算量が急激に増大します。これらは従来のコンピュータ(古典コンピュータ)では、計算時間や問題規模に限界を迎えつつあるため、次世代のアクセラレータとして量子コンピュータに期待が高まっています。
近年、量子アルゴリズムやハードウェアの進展により計算能力は向上している一方で、量子コンピュータの実用化に向けては、「計算後の読み出し(測定)」が大きな課題となってきました。量子コンピュータ上の計算自体は高速に行えるものの、計算結果を数値として正確に取り出す際に膨大なコストが発生し、計算全体の処理時間を支配し、量子コンピュータ本来の高速性を打ち消してしまうという大きなボトルネックとして顕在化しています。
図1.量子計算の流れと課題
このような背景のもと、QuemixとSCSKは、量子計算の価値を左右するこの「測定回数」に取り組み、従来前提とされてきた大量の測定を必要としない、より効率的な読み出し手法の研究開発に取り組んできました。
2.新技術「PODリードアウト」の概要
QuemixとSCSKは、2024年の資本業務提携以降、量子コンピューティング分野における共同研究を進めてきました。本研究では、流体計算に注目し量子計算の結果から重要な情報を効率的に取り出すための新しい読み出し技術として「PODリードアウト」を開発しました。
従来手法が量子状態を逐次的に読み出すのに対し、本技術では、事前に古典計算で行った数値流体計算から再構築用のフィルター(POD基底※)を構築します。構築したPOD基底を量子回路に埋め込み、量子状態に対してPOD基底を用いた測定を行います。この測定により量子状態にPOD基底の成分がどのくらい含まれるかを取り出すことができます。これにより、量子状態の中から重要な特徴量のみを直接抽出することができ、効率的に量子状態を再構築することができます。本技術は現在特許出願中です。
図2.PODリードアウトの概要図
PODリードアウトは以下の特長を有しています。
・測定回数の削減と高精度化の両立:
量子状態の重要な情報を直接抽出することで、測定精度を維持したまま、必要な測定回数を抑制します。
・量子計算の高速性を維持:
量子計算部分の高速性を損なうことなく、量子--古典間インターフェースのボトルネックを軽減します。
※POD基底(Proper Orthogonal Decomposition Basis): 流体の流れのデータなど、非常に多くの情報を含むシミュレーション結果の中から、「よく現れる代表的なパターン(たとえば、特徴的な渦の形など)」だけを抜き出して表現するための手法です。すべてのデータをそのまま扱うのではなく、重要な特徴だけに絞ることで、情報の本質を保ったまま、データ量を大幅に減らすことができます。
3.量子コンピュータの実用化への貢献
従来の読み出し手法では、量子コンピュータの計算結果を逐次測定するため膨大な測定回数が必要でしたが、本技術では最大で1/1000、測定回数を削減することに成功しました。
図3. ベンチマークデータ実験の結果
今回の計算では、図3のa.を真の解とし、この結果と同等な結果を再構築することが求められます。
本技術(図3のb.)は従来の読み出し手法と比較し、少ない測定回数で目視では識別不可能なほど高精度な読み出しを可能としています。
また本技術は量子コンピュータの計算結果から重要な指標や数値を抽出する用途と親和性が高く、以下のような分野での活用が期待されます。
・製造分野:航空機や自動車設計における数値流体計算シミュレーションの高速化
・材料分野:電池新材料や半導体新素材などの分子シミュレーションの加速
・金融分野:デリバティブ価格評価やリスク分析等の確率計算の高速化
・CG・デジタルツイン分野:光の挙動などの物理シミュレーションによるCGやデジタルツインの高度化
4.今後の展望
今後は、未知の基底に対しても少ない測定回数で高精度な読み出しを可能にする汎化性能の研究を進めていきます。さらに、顧客との共創を通じて量子計算アルゴリズムと組み合わせた実証実験を行い、脱炭素社会の実現や産業競争力の強化に資する革新的なソリューションの創出を目指します。
5.国際会議(Q2B 2026 Tokyo)での発表
Q2Bは量子テクノロジーのビジネス応用に関する国際会議です。国内外の量子コンピュータベンダーによる最新の製品開発状況や先進的な取り組みの発表の場であると同時に、量子コンピュータベンダーと研究者・政府関係者・エンドユーザー・投資家を繋ぐエコシステム創出の場として、毎年、欧州・北米・東京の三か所で開催される業界を代表する国際イベントです。
このたびの共同研究成果は2026年6月4~5日にグランドハイアット東京で開催される「Q2B 2026 Tokyo」にてQuemixとSCSKの研究者がケーススタディトラックに登壇し発表する予定です。
Q2B 2026 Tokyo(イベント公式サイト)
https://q2b.qcware.com/ja/conference/2026-tokyo
SCSK株式会社について
SCSK株式会社は、コンサルティングから、システム開発、検証サービス、ITインフラ構築、ITマネジメント、ITハード・ソフト販売、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)まで、ビジネスに必要なすべてのITサービスをフルラインアップで提供しています。また、ITを軸としたお客様や社会との共創による、さまざまな業種・業界や社会の課題解決にむけた新たな挑戦に取り組んでいます。
https://www.scsk.jp/
株式会社Quemixについて
Quemix は、株式会社テラスカイ(本社:東京都中央区、代表取締役:佐藤 秀哉)の連結子会社で、量子コンピュータ、量子センサ、材料計算関連の研究開発を行っています。「量子技術で人類が夢見た未来を実現する」というビジョン実現のため量子技術で時代をリードする企業のブレークスルーを支援していくことをミッションに、2019 年の会社設立時より誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)向けのアルゴリズムにフォーカスした研究開発をしており、量子化学計算アルゴリズムとして数学的に量子加速が証明された「確率的虚時間発展法(Probabilistic Imaginary-Time Evolution、PITE®)」を開発・特許取得しております。日本における FTQC アルゴリズム研究分野をリードする Quemix では 2030 年を目標に材料計算・シミュレーション領域における量子コンピュータ実用化に向けて鋭意研究開発を進めております。
本件のQuemixによるプレスリリースはこちらをご覧ください
https://www.quemix.com/post/20260602-scsk
お問合せ先
【Quemix 事業に関するお問い合わせ】
株式会社 Quemix https://www.quemix.com/contact
【メディアの方からのお問い合わせ】
株式会社テラスカイ 広報担当 pr@terrasky.co.jp
※本文中に記載されている会社名、製品名は、各社の登録商標または商標です。